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 「予定通り、この国には昨日スイッチが溢れかえりました。メディアを通じた情報操作や、こちらで用意したスイッチを至る所で配りました。なるべくバレンタインデーに関わりの無さそうな人物を中心に。来年には最早常識と化していることと思われます」  「そっか。じゃあ、そういうことで」  部屋を出ていこうとする男を、スーツ姿の男が呼び止める。  「あの」  「ん?なに?」  「・・・いえ。これが実行されれば間違いなく貴方はこの国の歴史に名を刻むでしょうね」  「それは良い意味で?それとも悪い意味で?」  感情が読み取れない表情で男は訊く。スーツの男が言葉を返せずにいると、男は続けた。  「まあ、良い意味な訳はないか。来年の今頃はこの国も戦争中だ」  「日付は絶対なのでしょうか?」  「そこだけはズレないようにいろいろと手を回しているよ。遅かれ早かれ戦争自体はもう免れられない。でも、この国の連中は結局こんなギリギリになっても、どうせそんなことにはならないとどこかで高を括ってる」  「はい」  「事が起きるまでは何の危機感も持たず適当にいたくせに、どうせ何かが起きればそれは全てどこかの誰かのせいにする。だから、せめて責任の一端くらいはちゃんと担わせてあげようと思ってね」  「責任・・・ですか」  「そ。『responsibility』」  スーツの男は世の中に出回った箱の蓋を手に取り、そこに刻まれた文字を見る。  「一応ヒントというか、まあ私なりのユーモアだよね」  男は再び感情の見えない表情を浮かべる。  「来年の2月14日には開戦。その日スイッチが押される度に、連動した長距離ミサイルがびゅんびゅん飛んでいく。間違いなく関係ないとは言えないよね。ある種の国家総動員法っていうのかな」  男はそこまで話すと、部屋を出た。  一人残された男は、箱の中のスイッチを押した。  その重さとは裏腹なポチッという軽い音が部屋に響いた。  
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