上手くいかない男

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男の人生は失敗続きであった。長年勤めた仕事はクビになり、妻には愛想を尽かされ、何をしても上手くいかない人生に嫌気が差していた。 「かといって、死ぬのは怖いし…。首を吊るのは苦しいって聞くしなあ」 ビルの屋上にやって来るまではよかったものの、思っていた以上の高さに、飛び降りる勇気は出ない。結局、男は何もしないまま自分の家に帰ってしまった。当然のごとく、家に帰っても誰も居ない。 「やばい、もうこんな時間だ。早く寝ないと明日の仕事に遅れてしまう」 時計を見て焦った所で我に返る。自分は仕事をクビになったのだ。まだ現実を受け入れられない。貯金のほとんどは妻に持ち逃げされてしまったので、ずっとこのままと言うわけにもいかない。今更職を探そうにも、三〇代にも差し掛かろうという年齢では雇ってくれるところは少ない。アルバイトをするつもりにはなれなかった。ぼんやりとしたままネットを見ていると、睡眠薬による自殺だと苦しまずに楽になれると知った。これならば、小心者の自分でも出来るかもしれない。通販で購入する。家に届くのは三日後、それまでは自由に過ごすとしよう。財布に残されたなけなしの金を持って外に出る。 「どうせ死ぬのだ。最期くらいは安酒なんかじゃなく、ちゃんとしたやつを飲みたい」 ふと、酒場が目に留まる。このようなところ、今まであっただろうか。意外と家の近くにあったのだが、これまでは忙しくて気付かなかった。人の雰囲気は幾らかあるが、少なそうだ。落ち着いた感じで飲めるに違いない。覚悟を決め、扉を開ける。
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