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水槽の中、こまめに水替えはしていたとはいえ、様々な微粒子を含んだ水の中で生きていたその躯の、表面やエラの内側に付いた泥を洗い落とし、口をピンセットで開ける。
「わたを出すわ。」
烏丸さんはカッターを器用に繰り、その腹を割いて中身を出す。
そこに、確かに生命現象の一部としてあったグロテスクな生体の一部。
未だ生き生きとしているようにも見える胃や腸。
「ホルマリンを10%ほどに薄めて頂戴。」
「はい。」
ビーカーの目盛りを注視して、ホルマリンと水を入れガラス棒で撹拌する。
「できました。」
「よし、じゃあざっと原理から説明しましょうか。
まずこのホルマリンで死体が腐らないようにたんぱく質を固定するの。
するとアルデヒドがタンパク質のポリマー同士に、架橋と呼ばれる構造体を作って分子が固定されるわ。
この大きさだと、そうね、十日ほど漬け込んでおけばいいでしょう。」
「はい、わかりました。」
作った液体にその処置を施されたディスカスを漬け、アルミトレイに 入れて、上からラップをしておく。
この中で、肉眼では確認しにくい化学反応が確かに起こっているのだ。
それを棚の隅においてカッターとピンセットを消毒し、用具を片付けた後は、他の部員の活動を見学することにした。
『水と緑の惑星展』では、様々な出し物が出される。
毎年恒例の最たるものが、学校周辺の地域のロードマップで、地図上に、観測した生物の写真を展示する。
数年前に、紙のマップから、コンピューターの地図に変わり、(このことの是非をめぐって当時の部員同士ですったもんだがあったそうだが)これをスクリーンに展示し、地図上のアイコンをクリックすると、生物のデジタル写真が出る仕組みを取っている。
写真撮影の対象は担当制で、私は草花。
他の担当は、魚住さんは魚類 に、烏丸さんは鳥類 。
爬虫類は、二年の鰐淵さん。哺乳類は、一年の吠埼君に、昆虫は蜂須賀さん。
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