夏の祭り

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街のはずれ。  この片田舎の風景にはまるで不釣り合いなアラビアの宮殿のような屋根。  まるでそのホテルが城として、その城下のように、それと同じ目的の建物だけが並ぶ一帯。  夜になるとネオンが点く。  それを尻目に、改めて今日の目的地へと足を向ける。   一級河川荒根川。  この一帯の水田は、この川の水系の水を利用している。  湿地エリアとして分類しているこのあたり。  自転車で、その合間の舗装のない細道を行く。  遠くに水門が見え、用水路から川に水 が流れいるのが見える。  今の時期は半開だが、本格的に梅雨が始まると氾濫を防ぐために全開になる。  この用水から流れる周辺の土地に、農地として開かれておらず雑草が生えたままとなっているところがある。 ここに求めるのは、「ワタラセツリフネソウ」。  2005年に発見され、従来の釣船草から区分された新種。  その名の通り渡良瀬川の遊水池で、地元の高校の先生が発見したらしい。  その後さらに専門的な研究がなされDNAレベルでも一つの個体と確認され、正式に新種として認定されたのだ。  ロードマップ作りにおいて、植物担当になったので、これまでにない何か新しいものはないかとインターネットで探していたところこの情報を見つけた。  部員も先生も、それはぜひ探してみたら良いと勧めてくれた。  関東全域の湿地帯に分布しているという情報だったので、休みの日はカメラを片手にこの辺りをちょくちょく探しに来て、そして、見つけた。  その時は本当に嬉しかった。  宝の在り処は、吹く風にも水の香りが漂うような、農耕車用のあぜ道のその奥。  黄緑の茎、その分岐する場所に青々とした葉が葉緑素をみなぎらせ、そしてその先端。  薄く紫がかった(つぼみ)がふくらみかけている。  雑草の中にある宝。    『雑草などというものはない
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