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草には全て名前がある。』
ある生物学者の『詔』だが、それと比べればやはり他の草は見劣りしてしまう。
このままいけば、五枚の花弁が帆掛船のような形の紫の花を咲かせるのが名前の由来。
この新種は、一部の花弁の先端が黒く萎縮していることから区別できる。
前に来た時よりも大きくなっている釣船草。その中に仕組まれた、生物の明確な遺伝配列に基づいた細胞分裂の営みに驚嘆させられるものだ。
そして自分の中にもそれは感じられる。
女子としては、もう少し、聖くんと同じくらいある背の方は低く、あと胸はあるといいと願ってるけど。
それを様々な角度から写真に収めた帰り、あるものが目に映った。
湿地の奥。葦のような草の生え繁る、その隙間。
一羽の鳥が死んでいる。
カメラのズーム機能で見てみると、レンズ越しに見えたのは鷺のような鳥で、首は折れ、内臓は飛び出ている。
その周りにたかる虫や、カラスたち。
天然の鳥葬。
思う。
この自然界を織りなしているのは、まさに無数の水漬く屍、草生す屍。
数多の生き物たちの屍からこの土はできている。
その上で、今もこの肺が呼気する大気の組成は、その動植物の息吹。
それが絶えた生き物は、あの鳥のようにまた土に還って新たな息吹の糧となる。
もっともそれを意識した生き物は人間くらいで、他の生きものたちは、その営みに殉じることを、かえりみたりはしないだろう。
そんなことを思ったのちの帰宅後、写真データをパソコンに取り込んで整理した。
そして、学校であのことを話す決心をつけたいと、箪笥の中。
反物でこそない洋生地製だが、とにかくその紺青に浮かんだ椿を、見遣った。
自然の流れに移ろうことのない、折り込まれた造形。
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