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ディスカスのホルマリン固定ももう十分なので、次の段階に入る。
軟骨染色。
ホルマリンをしっかりと水で洗い流し、ゴム手袋をはめてピンセットで皮をはぐ。
水槽の中の水の濁りを受けてきた鱗が、一枚一枚剥げてゆく。
染色液を作る。
ビーカーの中にエタノール、氷酢酸、そして、瑠璃色のようなアルシャンブルー液を一定の割合で混ぜる。
深いアルミトレイの中に液を入れ、皮を剥がれ、骨がむき出しになったディスカスの骸を漬ける。
しばらくおけば、軟骨が青く染まる。
有機構造体への染物という点では織物を作るための糸の染色と変わらない。
その後は、トリプシン水溶液で透明化する。
さらに日はかかる。
お宅にお邪魔させていただく日。
古い診療所。
その隣、これも古い日本家屋。
うちと同じだが、こうしたあるがままの佇まいを、医者になっても飾らず保ち続けてる、そんな家風が見て取れるその家のチャイムを鳴らす。
本人が出てくる。
板間の、彼の自室の本棚は、思った通り、理系科目の参考書に、医学系の本もちらほら。
それらの話を交えながら、これもきっと彼が小学校に上がった時から使い込まれてきたとわかる机で、数学や理科の勉強。
そして。
「ああ、おしっこしたくなってきた。トイレどこ。」
「廊下の左の突き当たり。」
そこで、排泄の感覚の中で目に付いたもの。
トイレの棚にも置かれた、さまざまな、医学書や。
動物学や、植物学の本もある。
こんなところでも、ここの家人は基礎勉強を怠っていない。
その、植物学の本を手にとってペラペラ眺めてみた。
そして、たまたま開いたページに書いてあったこと。
部屋に戻り、彼のベッド、その下部についている引き出しを足でつついてみた。
「おい」
「ねえ知ってる。」
「何をだよ。」
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