ある朝早く

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東雲(しののめ)が空を照らす。    少し早く起きたので、部屋のカーテンを開けてそれがこの郊外の街に照らされるのを見た。  それは、地上の命をあまねく照らすように、その生命のイメージを掻き立てた。  二面性。  等しく行き渡る陽光をさんざめく受けるもの。  それを拒むように、どこか暗いところに沈んでうごめくもの。  そんなものを、なんとなく感じた。  それは、この人間の営みも同じ。  私もまたその一部であることを象徴するような、ハンガーにかけられた高校の制服。  肩までの髪をいつも通りストレートに整える。  役場の職員の父と専業主婦の母と、小学生の弟との朝食。  築50年。木造二階建て。表札には、私、椎名椿(しいなつばき) と、亡くなった祖父母を含め、家族全員の名前。  門の脇、私の名前にちなんで祖父が植えてくれた椿の記念樹。  古い日本家屋に、小さな庭と、先代まで農家だったので、そのための物置のついた家を自転車で出る。  途中見えるいつもの景色。  初夏の終わり。水田、用水路、雑木林。  私の家のような風体の農家や、殺風景な建売住宅。  自然と人間が織り成す、この松街市の郊外の光景。  県内でも進学校に位置する、この街の県立高校、松街高校。  それなりの歴史のある古い校舎。  私の所属する、一年三組。  いつも通りの教室。いつも通りのホームルーム。
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