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「綺麗。」
私も烏丸さんも感無量。
あとはグリセリンに漬けて保存すれば、後輩たちがこれを引き継いでくれる。
そしてこの形と色は、生命の世代の引き継ぎ、その進化の過程を端的に示したものでもある。
太古。海から発生した生命。カルシウム分を多く含んだ海の塩水に住む魚は、軟骨だけでも体を支えられた。
そして、生命が陸地へと活動の場を広げるに当たってその嚆矢を開いたのは、淡水の川。
ここに進出するためには、胎内にカルシウム分を蓄えておく必要があり、これを含んだ硬骨が発達した。
この中から、さらに肺機能を持ったもの、『肺魚』が現れる。これが、私たちの吐息の、起源。
真夏。積乱雲の下。その吐息が汗とともに発散される運動場。
正直、この学校が甲子園の土を踏むことは難しいだろうが、それでも取り組む部員たち。
私にとってのそれは、あの湿地の中。
むし返す暑さの中、麦わら帽子をかぶって進んだ先。
ワタラセツリフネソウ。
カメラのファインダーに収まったそれは、清新な紫の花を咲かせてくれた。
私の吐息もまた、熱の大気に溶けていった。
その夜は、一人祝杯をあげようと、家の納屋にいた。
祖母が生きていた頃は、ここでよく漬物を作っていたものだが、私や弟があまり食べなかったためか、祖母が亡くなってからその桶は埃をかぶっている。
そうした道具の中で唯一、時々は開けられている痕跡のある木箱。
父のもの。
中には、黄ばんだ原稿用紙の束。夢の跡。
その脇に置かれた椅子に、ウイスキーの瓶。
時々ここから拝借している。
口をつけると、苦みが広がり、エタノールが胃の中で分解されていくのを感じた。
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