夏の祭典

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 弟は、あのとき泣いていたが、今はただ厳粛な祭典の雰囲気になんとなく奮えているだけのようだ。  四人で寺に参る。 『椎名家代々之墓』と掘られた、だいぶ年季の入った墓石。   その元、細部分裂の過程において私の元となったひとびとの、遺骨。  境内に参り、中に設えられた灯から提灯に火を灯す。  先祖霊の帰還。その火のモニュメント。  毎年これを見ると、なにかぼんやりとしか気持ちになる。 「さあ、今からご先祖様たちと一緒だ。」  父が言う。  その時、寺の奥から何かを感じた。 「なんだ、トイレか。」 「うん。ちょっと行ってくる。」  奥にトイレのあることは知っていたが、それじゃない。  何か生命現象を超越したものが、私を呼んでいる気がした。  トイレの脇に、それはあった。  モノリス。  真っ黒な石版。  ヒトに知性を与えるもの。  どうしてここに。       しばらく恍惚としていると、不思議な感覚は次第に薄れて行き、そして消え、あるのはただの風景のみとなった。  戻る。  死者と交信する祭典の中に。  盆休みは終わり、文化祭の準備もいよいよ佳境。  標本は並び、鰐淵さんたちの生態系プログラミングも動き、みんなで集めた観察データにはツリフネソウの写真も収まった。
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