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数日後。
机の引き出しを何気なく開けると、そこには、あの椿の造花。
花の型をした、息吹のない被造物。
それを取り出したところで、また窓の外から私を呼ぶ声だ。
あの不思議な感覚。
造花を持って出ると、やはりいた。
狐。
今は花のない、庭先の本物の椿の下。
走って私を誘う。
どういうことなのかは、その時何となくわかり始めていた。
季節外れの人口の花を持って向かった先も何となく予想していた場所。あのお寺。
顔で、中に入るように促された。
まるで、そこは自分の領域ではないからお前が行け、というように。
向かう場所。モノリスを見たトイレの脇。
―――なんのことはない。
改めてみれば、それは超生命体の知性コンピューターでもなんでもない。
ただの黒ずんで古ぼけた石碑だ。
それも、なんのためのものなのかまでちゃんと彫ってある。
『刑死者慰霊碑』と。
その脇には、解説の立て札もちゃんとある。曰く。
『この地は、江戸の昔、街道の通行人への見せしめのための罪人晒し首の刑場であった。
この碑は、その刑死者を弔うため往年の住職が建立したものである。』
そういうことだ。
ここは、ヒトが、その同属の死を、意図的に鮮烈にその意識に刻み込むことを強要的に成した場所なのだ。
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