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そのやせぎすな体躯に、壮年に達した人生と、それまでに読んできた新古書の文言が湛える風格をまとった、担任の田嶋和繁先生。
国語の先生だ。
半年かけて形成されてきた、いつも通りの人間関係。
少し前の席にかける、源聖くん。
長身だが童顔の顔に、楕円形の眼鏡を掛け、それが顔の一部になっているような男子生徒。
さりげなく声をかけたいが。
「聖くんおはよー。」
先に声をかけたのは、左近時見世子。
卓球部に所属する、こちらはもっと円に近い眼鏡をかけた快活な女子生徒で、誰にでも明朗に話しかける。
「ああ、おはよう。」
聖くんは静かに、それでいて凛とした感じで応じた。
何気ない会話。そのあと、その日の授業は淡々と進んだ。
放課後。生物準備室。
様々な薬品の入り混じったような独特の匂いのするこの部屋が、私の所属する生物部の部室。
「失礼します。」
「おう。こんにちは。」
痩せた顔に、四角い眼鏡ははめ込まれたようになった、3年の魚住孝太郎部長。
この部では一人一人が自分のテーマを持っており、部長のテーマは水棲生物。
生物室にある、幾つもの水槽。様々な小型魚が飼ってある。
メダカやナマズなど直接採取してきたものから、町の専門店から部費で購入した熱帯魚。ネオンテトラにはじまり、コリドラス、グッピー、そしてディスカスなど様々な魚がこの小さなアクアリウムの中で密閉された蠱惑的な生態系を形成している。
そしてさらにその蠱惑性を見る者に与えるもの、透明骨格標本。
生体の骨格のみを摘出し、その硬骨と軟骨に染色液で着色した標本だ。
先輩が作成した、この魚類や両生類の標本が並んでいる。
毎年この部が文化祭で開催する、『水と緑の惑星展』で展示するのだ。
「こんにちは、椿さん。今日も始めましょうか。」
「はい。よろしくお願いします。」
今日これを指導してくれる、2年の烏丸弥生先輩。
黒のショートボブが知的でこざっぱりした印象を与えるこの先輩は、去年まだ中学生だった私が、文化祭の見学に来た時にも展示の説明をしてくれた。
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