ある朝早く

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そして私がここに合格して入部した時、私を覚えてくれていて、入部した時には来てくれて嬉しいと言ってくれた。  二人で協力し、薬剤と機器を出す。  ビーカー、ホルマリン、ピンセット、そしてカッター。  標本にする対象生物は、元はここの水槽で飼っていたディスカス。  それは学問上の分類では、『動物界、脊椎(せきつい)動物門、脊椎動物亜門、条鰭網(じょうきこう)、スズキ目、カワスズメ科、ヘロス族、シムフィソドン属ディスカス』、となるが、要は平たく、青と黒の細かな島を持った魚だ。  原産地は、地球の裏、遠くアマゾン川らしい。それが人間の手によって捕獲され、移送され、繁殖されて遠くこの部屋の水槽に収まっていた。  そのダイナミズムに敬意を持たれつつ先輩たちから受け継がれ、今は魚住さんが可愛がっていたのだが、ここ数週間病気だったらしく元気がなかった。  そして数日前、とうとう死んでしまい、水槽の上に浮いているのを部員が見つけたので標本にしようという話になったが、魚住さんは自分がそれに手を入れるのが忍びないらしく烏丸さんに任せ、私が手伝うことになった。 「気をつけてやれよ。」 「はい。わかりました。」  監督している、白衣を着た顧問の、津島真一先生が言った。  若い生物と化学の先生だ。 「さて、始める前にまずこの標本についておさらいしておきましょうか。」  烏丸さんが言った。 「透明骨格標本というのは、生物の骨格を漂白してから、主にタンパク質でできている軟骨はアルシャンブルー、カルシウム分を含んで血管や神経も通っている硬骨はアリザリンレッドで染色して立体的に表現したものよ。」 「はい。」  そこまでは基礎知識として知っていた。  これは解剖学の資料としてだけでなく、美的な造形としても人気の高い手法だ。 「さて、まずは洗うわよ。」  トイレ掃除に使うようなゴム手袋をはめる。
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