ある朝早く

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これ以外の展示のために、鰐淵さんたちがパソコンに向かっている。  作成しているのは、『生態系シミュレーション』。  画面上に数種類のアイコンが動き回り、これにはそれぞれ生物の捕食を模したプログラミングがなされている。  これも、コンピューターにも通じた部員の立案によって数年前から企画されたもので、このコードの基礎を作るのにも大変な苦労があったらしい。  画面上を遊走する大きな赤いアイコンは肉食動物。  青いアイコンは、草食動物。  動かない小さな緑のアイコンは植物、という具合だ。  それは、先ほどまで私と烏丸さんが捌いていたような、リアルでグロテスクな実相を持たない、『人工生命』。  だが、演出効果のために、可愛らしい目と口が付いている。  しかし、バーチャルなものとはいえこれはよくできている。  これらのアイコンが画面上をランダムに遊走し、肉食動物は草食動物、草食動物は植物のアイコンに触れるとそれを捕食する。  一定時間以上獲物に触れることができないと『餓死』によって消滅する。  運良くそうならず、生まれてから一定時間の経過したアイコンは、『繁殖』によって分裂する。  『性』はここでは簡略化のため想定されていない。  今苦戦しているのは、生物の数や運動性の数値設定のようだ。  食べられる側の生物が少なすぎると、食べる方が生きられなくなり、生態系が全滅してしまう。  それを多くすればそんなことはないのだが、この場合生物が増えすぎてその処理する情報量が多すぎて、しまいにはソフトをフリーズさせてしまうようだ。  そこで今、長い時間、可能な限り永続的にソフトを起動させる設定を見つけ出そうとしているのだ。 「ねえ、こんな風に生物の仕組みをいじれるとしたら私たちって神様みたいじゃない。」  蜂須賀さんが言った。  「いや、それはGAのシステムだろ。」  と吠埼くん。   GA(Generic Algorithm 遺伝的アルゴリズム)とは、プログラミングされた人工生命の一形態であり、同じようにプログラミングされた複数の個体を、特定の条件に適応したものに絞っていくシステムだ。
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