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その為、知沙が大哉の“かくしごと”を知っているという事も、大哉は当然知らない。
大哉と会うのも、今日で最後。
杏菜の話を聞いて、そう心に決めた知沙は、最後に今までと同じ調子で、今までと変わらぬ大哉に会いたいと、大哉にはわざと何も伝えないでいるのだ。
携帯電話を開いてすぐに目に入る、待ち受け画面。
知沙のそれは、付き合ったばかりの頃撮った、大哉とのツーショット写真。
それを見て、知沙は大哉との事に、そっと思いを馳せる。
「今日からここでお世話になります、中峰知沙です。教師になった理由は……」
三年前。知沙が教師として働く事になって、初めて配属された中学校の職員室での、新任挨拶の際。
「はーい、中峰さんは趣味とかあるの?」
「中峰さん、好きな食べ物は?」
一しきり自己紹介を終えた所で、他の教員達から様々な質問が飛んできた。
それは知沙との親睦を深める為に飛んできた質問とは分かっていたものの、知沙はいつもの癖で思わず、全ての質問に対し、
「特に」
という、一点張りを貫いてしまったのだった。
その事で場の空気は若干重くなり、その後、自ら知沙に話しかけてくる人は誰もいなかった。
しかし、その数日後。
新任の役目という事で、他の教員達の分まで、一人コーヒーを淹れていた知沙に、
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