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嘘をついている時や後ろめたい事がある時は決まって、鼻の下が伸びる癖がある大哉の、鼻の下は少しも伸びていない。
そんな大哉は、知沙が大哉の“かくしごと”を知っている事を、杏菜から聞いた様子もなさそうだ。
とはいえ、どうして大哉はそんなに平然としていられるのだろうか?
大哉の態度に嫌悪感を抱きつつも、
「どうぞ上がって、大哉」
知沙は大哉に微笑みを向け、こちらも同様に、平然とした態度で大哉を出迎える。
「ちょっと適当に座っていて、コーヒーを持ってくるから」
大哉をリビングルームに通すと、知沙はそう言って、キッチンへと向かう。
事前に淹れておいたコーヒーを温め直し、こないだ軽井沢に旅行した時に大哉が買ってくれた、お揃いのマグカップにそれを注ぐ。
このマグカップを使うのも、今日が最初で最後かもしれない。
そう思うと、色味が派手であまり気に入っていなかったこのマグカップも、やけに愛おしいものに見えてくる。
両手にマグカップと、角砂糖一つをもって、知沙はリビングルームへと向かう。
大哉はテーブルの前の椅子に、足を閉じて、行儀よく座っていた。
「お待たせ」
大哉の前にマグカップを一つ置き、自分はもう一つのマグカップと角砂糖を持って、大哉の向かい側の椅子に座る。
大哉は知沙に、ありがとう、と礼を言うと、
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