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「あ、これ、こないだのやつだよね?軽井沢に行った時の。使ってくれたんだ」
と、満足そうに微笑む。
今の大哉は、どんな気持ちでその言葉を発しているんだろうか?
大哉の言動に、知沙の抱く嫌悪感は増々募る。
愛おしそうにマグカップを眺め、コーヒーを口に運ぶ大哉を尻目に、知沙は自分のコーヒーに角砂糖を入れて、テーブルの上に置いてあったスプーンで、それをそっと溶かす。
コーヒーに、溶かしたもの。
一見、角砂糖に見えるそれだが、その正体は角砂糖とは全く別物だ。
知沙が今溶かしたものは、毒物。
白い粉上のそれは、知沙自らの手によって、サイコロ型に丁寧に加工してある。
その甲斐あってか、事情を知らないものにとっては、どこからどう見ても角砂糖だ。
「三日間だけ、時間が欲しい」
杏菜にそう告げた日の夜、知沙は今後の自らの動向について、考えを巡らせていた。
この状況で、二人一緒に杏菜から逃げるわけにはいかないだろう。
それならいっそ別れて、大哉から賠償金を取ってもいいかもしれない。
それとも……。色々な事が、頭に浮かんできた。
知沙にとって、自分一人を愛してもらえる訳では無いのに、大哉とずっといるというのは息苦しい。
その為、確実な事は、いづれにしても、知沙は大哉と別れる必要が出てくるという事。
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