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しかし知沙は、大哉を愛している。それはもう、心の底から。
そんな知沙にとって、大哉から一途な愛を受けられないという中で、生きている意味などない。
そこで知沙は、毒物による自殺を図ろうと、心に決めた。
どう考えても、今回の件で、悪いのは知沙ではない。しかし死ぬのは、知沙だ。
愛する大哉を傷付ける事は、とてもできない。
その為、大哉へのせめてもの復讐に、と知沙は大哉の目の前で自殺する事に決めたのだった。
少しスプーンで溶かしただけで、塊だった毒物は、あっという間にコーヒーに溶けていく。
知沙はこっそりと、目の前でコーヒーを飲む大哉を見る。
こうして顔を見るのも、もうこれで最後かもしれない。
穏やかで優しいその表情を目に焼き付け、知沙はマグカップを口元に近付ける。
その時だ。
「待て!」
大哉が突然、大声でそう叫んだかと思うと、知沙の手からマグカップを奪い取る。
少しばかり零れたコーヒーが、知沙の手にかかる。
その熱さに思わず知沙が手を引っ込め、大哉を見つめた時。
知沙から奪い取ったマグカップの中身を、大哉は躊躇なく、一気に飲み干した。
それは知沙に、マグカップを奪い取る隙も与えない程、一筋の迷いもない速さだった。
毒を飲み干した、直後。
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