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「アルディル」
そして温かい感情の籠ったキスをしてくるアルディルに、胸が一杯になったリースは彼の名を呼び、背に回した手に力を込め、震える声で訴えた。
「例え貴方様がいなくなったとしても……どこに行っても、追いかけます。嫌がったとしても意味はありません。『追いかけるな』と言われても、貴方様の気持ちは聞いたので。誰の手に渡ったとしても、奪い返してみせます」
「それは……とても、嬉しいです。どこに行っても、見つけてくれるのでしょう?」
「当たり前です」
未来の不確かさからか、はたまたリースの言葉に感化されたか。
アルディルの眦からも涙が溢れ、それをリースは舌で掬った。
例え覚悟を決めていたとしても、出来ないことは当然ながらある。
現に、アルディルが近くにいながら、リースは彼の正体を見破るのに時間が掛かった。
魔界はリースだって行った事がない。どんな所なのか噂程度にしか知らず、周りは敵ばかりの中、アルディルを探すのは至難の業だろう。
だがそれでも、言葉に出す事で覚悟を固め、それが現実になるよう祈る。
それは、アルディルだって同じなのだろう。
リースを抱きしめる手に込められた力が、溢れる涙が、それを物語っていて。
「愛しています」
憂いを払うように切なげにそう囁くと、彼ははみかみリースの胸板に頭を擦りつけた。
それからしばらくして、彼はとうとう学校に行くのをやめてしまった。
数時間ごとに気を失い、数十分起きたかと思えば、また気を失う。
そして起きた時に側にいるリースに、残酷にも彼は尋ねるのだ。
『誰?』
と。
寝ぼけ眼のまま尋ねた言葉は、けれども数分経てば記憶が戻ったのか、『す、すみません……!』と申し訳なさそうに謝ってくる。
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