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1章 丸石屋敷
「お前は、春日家の跡取りだ。……突然で済まないが、今日中に屋敷へ住み移り、丸石神を祀ってもらいたい。頼む……」
「はぁ?」
心電図や血圧が表示されるモニターにつながれ、鼻に酸素の管を着けた祖父の言葉に、良太は目を瞬いた。
コンビニでバイトをしていた良太のところに山梨C病院から電話が来たのは、大学が夏休みに入って間もなくのことだった。春日良一が脳出血で入院し、良太を呼んでいるというのである。
父方の祖父の名が良一であることは知っていたが、会ったことはなかった。なぜか父は生家と絶縁していたのだ。どこで良太の携帯番号を知ったのか、何かの詐欺かとも思ったが、病院からの電話であることは間違いない。
父は5年前に事故で亡くなり、母も一昨年癌でこの世を去ってしまったので、父が生家と縁を切った事情を知る者はいない。
しかし、脳出血で倒れた祖父に呼ばれているのに無視もできない。
というわけで、バイトのシフトを代わってもらい、はるばる東京から電車とバスを乗り継いで病院を訪ねたところ、初対面の祖父に、跡取りだから丸石神を祀れと言われたのである。
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