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祖父の良一は、細かいことを語れる状態ではなかったが、幸いにも病院に登録された緊急連絡先に、良太だけでなく春日正一の電話番号も記されていた。
その場で電話すると、すべて承知しているからすぐに来てほしいと言われ、良太はタクシーに飛び乗った。
三十分も走ると、左手の山の斜面は見渡す限り桃畑になった。国道を左折して、タクシーはたわわに実る桃畑の方角へ向かう。
「そこの観光農園がけっこう評判でね、ぼちぼち浅間白桃が食べ頃になりますよ。そっちの道を上ると、縄文時代の集落跡の公園がありましてね」
話し好きらしく、タクシーの運転手は道中ずっと観光スポットや特産品の説明をしていた。
畑道を抜け、緑濃い雑木林の間の細道へ入る。その曲がり角に、十数個の丸い石が並んで積んであることに気づき、良太はそれを目で追った。
「角の所に丸い石が積んでありましたが、あれは何ですか?」
「道祖神ですよ。村人や旅人の安全を守ってくれる塞の神だそうです」
「へえ。珍しいですね」
道ばたに石碑や地蔵が立っているのは見たことがあるが、丸い石の道祖神は初めて見る。祖父が言っていた丸石神とはあの類いの物だろうか。
「珍しいですか? この辺にはたくさんありますがね」
運転手によると、石の台の上に丸石を一つ置いたものや、一段並べただけのもの、無造作に丸石を積んだものなど、形状は様々だという。
「神社の入り口に置かれていたり、祠に供えられたり、めでたい物ってことでしょうかねぇ」
そんな説明を聞いているうちに、取りあえずの目的地、分家の春日正一の家に着いた。
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