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紙飛行機
1
青空が広がり、白くて大きい入道雲が浮かんでいる。
桜の花は散って、木の下に桃色の絨毯を作っていた。花が散った桜の木の枝から黄緑色の小さな芽がかおを出していた。
学生は新学期を迎えて、新たな気持で学校に元気よく登校する。社会人になった人たちは新たな環境でスタートする。
そんな終わりと始まりが背中合わせな季節。
それが春。
野上達也はマンション地域の通りを歩いていた。彼はそのマンションに住んでいる。
達也が目指しているのは、八号棟まであるマンション地帯の端の方にあるベンだ。ベンチには彼の友達がもう既に待っている。
なので達也は歩くスピードを少し上げた。
風が吹いてきた。
目をつぶるほどではない、そよ風だった。通りの木が少し揺れた。
達也はマンション地帯の大きな駐車場を通り抜けた。通り抜けて、細い階段を下ると、フェンスが片側にある道を歩いた。
その道を少し歩くとベンチがあった。
ベンチは木でできていて、背もたれがないものだった。
ベンチには加賀裕太が座っていた。
「おまたせ」
達也はそう言って、裕太の隣りに座った。
「おせぇよ」
裕太が不機嫌そうに言った。待たされていたからだった。
「ごめんごめん」
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