甘い香りに誘われる思い出

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甘い香りに誘われる思い出

 電車の中が、いつもより甘い香りを漂わせている。そうか、今日はバレンタインデーだったのか。はぁ……なんとなく、ため息をついてしまう。  別に、チョコレートが嫌いなわけじゃない。  むしろ、煙草もお酒もやらない俺にとって、スウィーツを食べるときは至福の時間TOP5に入る。ただ、バレンタインデーが好きじゃない。なんか、こう。考えると、背中がぞわぞわっとする。  もう十五年くらい前のことを、俺は未だに引きずっていて、立ち直れていないのだ。  母親と姉以外の女の子から、初めてチョコをもらったのは、中二年の時だった。同じ学年だけれど、ほとんど面識のない、美術部の女の子だった。  初めて、同級生からチョコをもらって、チョコをもらった時のあのドキドキ感と優越感ったら……。  問題はもらった後だ。  俺はまだ、恋をしたことがなかった。エロいことは、よく友達と話していたけれど、好きとか嫌いとか、付き合うとか付き合わないとか、本当によくわかっていなかった。  ありがとうと頂いたことはいいものの、その後、どうしたらいいのか何も理解していなかった。母親と姉に見つからないように、こっそり食べて、終わった。 告白の返事や、ホワイトデーのお返しのことなんて、何も考えちゃいなかった。
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