1.僕の恋人は、浮気性。

10/29
前へ
/45ページ
次へ
この時からだろうか。 いつの間にか彼から僕に話しかけてくれるようになった。 最初は辟易としていた僕だったが、話している内に意外な共通点を見出すことがあった。 例えば、朝ご飯はパン派だとか、チョコレートは好きだけど、オレンジピールが苦手なこととか。 雲の上のような存在だった人が、いつの間にか信頼のおける友人に変わっていた。 彼といると落ち着いた。 それは、どうやら彼も同じだったと知った時、何にも代え難いほどの嬉しさだった。 ◇◇◇ 一緒に行った夏祭りの時、花火を見ながら、勇気をだして、 『間宮くん。僕、君といられてすっごく楽しい。 本当にありがとう。』 今までの分も含めて、照れつつ、感謝の意を伝える。 「ほんと!?俺の方こそ成瀬くんに救われてるよ~。 成瀬くんといると落ち着くんだよね~。 …ねぇ、なんか“成瀬くん”って長いから、下の名前で呼んでもいーい?」 『うんっ!』 嬉しかった。 「じゃあ、りつ。」 隣で確かめるように、僕の名前を繰り返す。そして、 「りつも下の名前で呼んでよ?」 『…なお と言った時に、その夜目玉の1番大きい花火が打ち上がった。 彼はクスクスと笑うと、 「りーつ、“なお”でいいよ。」 その時の花火の光に照らされた、彼の照れたような笑顔を僕は一生忘れられないだろう。 いつもの緩そうな口調ではなく、甘く低い声音は、彼の本心を表しているようで。 不意にもこの時に胸が高鳴ったのだ。 この夏祭り以降だったろうか。 無意識に彼の姿を目で追いかけ、彼の言動に振り回されるようになったのは。 彼に抱いていた“憧れ”が“恋心”に変わっていたのは。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

292人が本棚に入れています
本棚に追加