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この時からだろうか。
いつの間にか彼から僕に話しかけてくれるようになった。
最初は辟易としていた僕だったが、話している内に意外な共通点を見出すことがあった。
例えば、朝ご飯はパン派だとか、チョコレートは好きだけど、オレンジピールが苦手なこととか。
雲の上のような存在だった人が、いつの間にか信頼のおける友人に変わっていた。
彼といると落ち着いた。
それは、どうやら彼も同じだったと知った時、何にも代え難いほどの嬉しさだった。
◇◇◇
一緒に行った夏祭りの時、花火を見ながら、勇気をだして、
『間宮くん。僕、君といられてすっごく楽しい。
本当にありがとう。』
今までの分も含めて、照れつつ、感謝の意を伝える。
「ほんと!?俺の方こそ成瀬くんに救われてるよ~。
成瀬くんといると落ち着くんだよね~。
…ねぇ、なんか“成瀬くん”って長いから、下の名前で呼んでもいーい?」
『うんっ!』
嬉しかった。
「じゃあ、りつ。」
隣で確かめるように、僕の名前を繰り返す。そして、
「りつも下の名前で呼んでよ?」
『…なお
と言った時に、その夜目玉の1番大きい花火が打ち上がった。
彼はクスクスと笑うと、
「りーつ、“なお”でいいよ。」
その時の花火の光に照らされた、彼の照れたような笑顔を僕は一生忘れられないだろう。
いつもの緩そうな口調ではなく、甘く低い声音は、彼の本心を表しているようで。
不意にもこの時に胸が高鳴ったのだ。
この夏祭り以降だったろうか。
無意識に彼の姿を目で追いかけ、彼の言動に振り回されるようになったのは。
彼に抱いていた“憧れ”が“恋心”に変わっていたのは。
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