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ーにしても成瀬か…。
正直、成瀬は孤高な存在感を放っている。
そう易々と声を掛けられそうな雰囲気でもない。
ーだからこそか。
「ゼミの親睦会と称して、成瀬に近づこうって魂胆か。なるほどね。」
にやりと隣を横目で見ると、なんとも微妙な顔をしている。
「なんだ、その顔。」
そう問うと、かっと目を見開く。
「恥ずかしいんだよ!なんか色々同時に暴露することになったから、どんな顔したらいいか分からねーし!」
「そーゆーもん?」
「そーゆーもん。」
「ふーん…」
ーわかんねぇな。
ただ、一生に一回くらいはそこまで好きになる人が現れてほしいという思いもよぎる。
もし現れてもきっと叶わないことは明らかだが。
佐々木は恥ずかしさを紛らわすように、鼻の下を擦りながら、意気揚々と言い放つ。
「まぁ、成瀬ならお前にぜったい靡かないだろうしな!それに、まずお前が口説こうとしないはずだし?」
“ぜったい靡かない”という佐々木の言葉に、好奇心が唆られる。
目を細め、笑みをかたどったまま肩肘をつき、佐々木の愚直なほど真っ直ぐな目を見詰める。
「…そうだと思う?」
ふとした瞬間に描いている幸せを砕きたくなる。
それが他人でも、自分でも。
佐々木の焦げ茶の目が怯えたように揺れる。
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