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あぁ。ダメだ。
どうもここのところ、昔を思い出してしまう。
前まではこういう場面に出くわすと、部屋の奥でひっそり泣いたり、気持ちを誤魔化すように、ひたすらバイトに打ち込んでいた。
しかし、今となっては諦めの境地に至ったのか、泣くことも無く、昔の彼を、好きだった彼を思い出してしまう。
この頃は幸せだったなぁ、とか。
あれは嬉しかったなぁ、とか。
例え、彼にとっては嘘でも、それは僕の本当の思い出で、永遠に奪われることのない、僕だけのものだから。
そして、知らず知らず無意識に作ってしまった、彼の分のオムライスを見る。
ラップをして置いておこうか。
きっと食べるだろうから。
彼は、僕以外の人と体を重ねている時でも、一度も僕の作っておいたご飯を残したことはないのだ。
家に帰って来ると必ず、綺麗に食べられている。
例え、求められているのが“恋人”ではなく、“食事係”でも、僕は、必要とされていると思うと嬉しくて。
もう2人の間に“恋人”としての繋がりは無いに等しい。
でも、僕のご飯を食べてくれている、そのことだけが、彼と僕を繋いでいる唯一のものだと思う。
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