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ようやく店に着き、それぞれ好きなように座っていく。
あれよあれよと言ううちに両脇を固められ、やたら派手に着飾った女が周りを囲む。
ーめんどくせぇ。
「ねぇ、尚樹くん。」
腕に絡んだ女が甘ったるい声で呼ぶ。
腕に感じる柔らかさと甘い香水の匂いが、より媚びた態度を増長させる。
ーうっとおしい。
どうせ人の噂に惑わされて俺に興味を持ったに過ぎないのに。
誰もがみな自分のことしか頭にない。
「実は今日のー」
***
鳴り響く雑音。転がるビール瓶。灰皿には大量の吸殻。死屍累々。
気付いたら殆どの人が酔っ払ったり、若干名抜け出したんだろう。人が少なくなっていた。
辺りを見渡していると、座りながら船を漕いでいる艶やかな黒髪が目に入る。
女を放っておいて言うのもなんだが、成瀬は華奢な上に滅多に見ないほど綺麗な顔だ。
こんな所で酔い潰れるのも不憫に思い、転がる死屍累々を踏まないよう成瀬に近づく。
ふとこんな時に佐々木は何やってるんだ、と佐々木を探すとあろう事か成瀬の目の前で酔い潰れている。
ーお前、バカか。
なんで先に酔い潰れてんだと呆れるが、ある意味佐々木らしくて笑える。
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