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時々ずり落ちそうになる成瀬を何度も背負い直し、自分の家の鍵を開ける。
辰樹でさえも数える程しか入れたことの無い寝室に入り、負ぶっていた成瀬を起こさないよう自分も横になりつつベッドへ横たえる。
ベットの真ん中に移動させ横たえさせる。
瞼にかかる艶やかな黒髪をよけ、まじまじと端正な顔を見詰める。
黒曜石のように艷めく瞳は瞼によって隠されているのが残念だが、その代わりに紅く火照った唇が魅惑的でー…
「…んぅっ…、…」
パッと手を引き、先程まで無意識に成瀬の唇に触れていた自分の右手の親指を凝視する。
ー俺は何をしてんだ…。
すぅすぅと気持ちよさそうに寝息をたてる成瀬を横目に、上から布団をかけてやる。
ーおいおい、どう言い訳するよ。
まるで自分が何人もいるかのように脳内会議が始まる。
異性ではなく同性に欲情している事実。
友人の想い人だという葛藤。
ほとんど誰も入れたことの無い寝室に初対面に等しい成瀬を入れるほどの執着。
ーとりあえず寝よう。
サッと立ち上がり風呂場へ向かう。
衣服を脱ぎ捨て、シャワーを無心で浴び、リビングに戻る。
ーここで寝るか。
女にもした事の無いほどの気遣いが出来てしまうほど嵌ってる。
孤高な存在が俺にだけ心を開いてくれたような特別感が心を舞い踊らせて。
全て忘れようとするかのようにブランケットをバサッと頭から被りソファに横になる。
「…ごめん」
小さく呟いた言葉は誰に向けた言葉なのかよく分からなかった。
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