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 白鵬寮の建物を初めて見て、寺田は実家の近所に在った市営団地よりボロいと思った。どう見ても70年代頃に建てられた団地だ。寺田の無学なる脳味噌でも浮かんでくる。 『タダより高い物はない』 白鵬寮の敷地に到着し、玄関のすぐ近くに在る平屋の共同塔に入る。入ると右側に事務所が在って、事務所を管理している銭湯の番頭に居そうな50代過ぎの太った寮管のおばさんが、 「お帰りなさい」 と挨拶して来る。どんなに性欲が溜まっても、このおばさんに欲情することは無いと寺田は断言出来る。  寺田は事務所に近付くと挨拶する。 「すみません、この度新しく期間従業員として働く者ですが」 と言うと、おばさんはさも忙しそうに近付いて来て、 「名前は?」 「寺田智浩です」 「寺田君ね」おばさんは名簿を開いて寺田の名前を確認し「寺田君はA棟の508号室だから」 おばさんは寺田にナンバープレートの付いた鍵を手渡すと、 「じゃあ、此処にサインと印鑑」 寺田はクリップボードに挟まれた自分の名簿欄にサインを書いた。印鑑はパーカーのポケットに入れてあったので、朱肉を借りて印を押す。 「写真撮るから中に入って」 大して忙しくなさそうなのに、おばさんはせわせわと鼻息を交えて早口で寺田に指示する。扉を開けて寺田を事務所の中に入らせる。寺田は見覚えのある一番大きいサイズのクロネコボックスのダンボールを確認するが、写真撮影が先だ。おばさんは寺田に部屋番号のA508と書かれた紙を手に持たせて、 「胸元で持って」 寺田にそう指図して、寺田がカメラを見ながら言われた通りに紙を向けると、寮管のおばさんは古いデジタルカメラで写真を撮った。 「じゃあ午後の4時から寮の説明会が始まるから、その間に荷物を運んで頂戴」
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