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 説明会は4時からである。iPhoneの時計を見るとまだ1時半。トイレに行きたくなった寺田は変化の乏しい風景に別れを告げて、靴を履いて自室から廊下に出た。鍵を閉めて歩き出す。寺田から見て廊下の右側が全て寮の部屋。左側に下階に降りるための階段や廊下に採光するためのサッシの窓ガラスがある。さらに、3つの鉄の扉が有る。  寺田は手前側から扉を開き始めた。  手前の扉を開けると洗濯室だった。見た目は前時代的ではなく新しい。壁や天井も白いし、墓石の如くつるつるとしたタイルの床も綺麗だ。左側の壁に家庭用の洗濯機が3台設置されている。洗濯機の上に100円を入れて起動するドラム型乾燥機が置かれ、さらに奥側に洗濯機上部にある物より大型の乾燥機も置かれている。右側の壁に衣類を手洗いするための大型の流し台と部屋を清掃するための用具が入っているロッカーボックスがあった。 (此処で洗濯していくのか)  寺田は扉を閉めて2番目の扉を開く。左右の壁に、鏡と洗面台が設置されている。部屋の奥にガス台の無いキッチンシンクがあって、家庭用の電子レンジが1台置かれている。 (此処で毎朝顔を洗うのか)  寺田は扉を閉めて3番目の扉を開く。お目当てのトイレだった。寺田はズカズカと入って右側の小便器で用を足そうとする。先客が奥の便器の前に立っていて用を足していた。小便器は3基在った。寺田は先客と小便器を1つ挟んで手前の小便器の前に立ち、ジーンズのチャックを開けて自分のモノを引き出し、用を足し始めた。  寺田はふと気になって左側に立つ先客の男を見た。黒のタートルネックの作業着に黒のデニムを履いている男。身長は170㎝弱で寺田よりも小さいが、頭の形が飯櫃(いびつ)なのか髪の毛が多いのか、妙に頭が大きく見える。顔の作り自体は悪くなく若そうだが、髪の毛に白い物が交じり、肌も浅黒く汚らしいので、70年代か80年代のやや古めの若者に見えた。  寺田の視線を感じて男が振り向くと、男は目を少し見開いて、 「寺田君?」 電波回線にノイズが交じったようなやや甲高い鼻声で訊いてくると、寺田も男が誰なのかすぐに思い出した。 「成宮君!」 二人の男は思わぬ再会に微笑した。
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