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 成宮は寺田と同じ小学校と中学校を出ていた。二人は互いに違う高校に進んで会えなくなるまでよく遊んでいた親友だった。成宮は少し気まずそうに暗く微笑みながら、 「まさかこんな所で会うとはな……」 「成宮君、日製に就職していたんだね」 成宮は排尿を終えた自分のモノを水切りして、ズボンの中に収納しながら答える。 「いや、俺は正社員じゃない。期間だ」 「えっ……」 成宮の言葉は過去の彼を知る寺田には意外だった。  寺田が知っている成宮は勉強の出来る非常に頭の良い秀才だった。成宮が進んだ高校は地元で最も偏差値の高い公立高校の川越高校。男子高校生達がシンクロナイズドスイミングを披露する映画『ウォーターボーイズ』の元ネタになったことで有名だ。中学3年生の時の寺田の偏差値が50、成宮は70近くあったし、中学校の中間テストや期末テストでも高い点数を獲得していたのを覚えている。勉強ではまるで敵わなかったが、実家が近いことから小学生の頃から毎日のように遊んでいた。  川高を卒業した成宮が期間工に甘んじていると云うのは寺田には甚だ納得し難い事態だった。成宮ならば大学も国公立や早慶、最低でもMARCHクラスの大学に進んで、自分のようなFラン大学と違って学歴フィルターで弾かれることもなく、易々と正社員雇用を勝ち取って良さそうな気がする。だがまさか成宮ほどの男を以ってしても、現代では正社員として就職することが出来ないのか。寺田は自分如きが就職出来ないのも当然のような気がしてきた。 「俺も期間で今月から入るんだ」 「そうか」 成宮は寺田の後ろを通って、小便器の右隣りに在る手洗い場で手を洗い始めた。 「成宮君も今月から?」 「俺はもう2年か3年くらいかな……」 「3年?」 おかしな話だ。寺田は大学を卒業したばかり。にも関わらず3年も前から働いていると云うことは最低でも19歳か20歳から此処で勤めていなければ計算が合わない。違和感を強めた寺田は、 「でも大学はどうしたの?」 「行ってないよ、俺。高卒だもん」  寺田は初めて成宮に勝った。川高を卒業しながら最終学歴が高卒なんて、川高から東大に進んだ奴らを探すより難しいのではないか。寺田は中学を出てからの7年間で、これほどまでに互いの置かれた状況が変化していたことに驚きを禁じ得なかった。
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