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 モンストで遊びながら、寺田は現実の歩行者優先社会から離れて、『車優先』になった日本の道路社会を妄想し始める。  交通事故が起きた。悪いのは歩行者である。そんな交通ルールの日本社会を築き上げてみる。其処では自動車の方が交通弱者だ。何故なら自動車の運転手は、運転免許を取得するため20万円以上の金を払って教習所に通い、高い試験費用や免許の更新料を払うからだ。車を購入する際は、多額の車体価格とオプションの装備品を払い、その額は数百万円に上る。自動車取得税、自動車重量税、消費税を支払い、自賠責や任意保険に加入し、ガソリン税に消費税まで二重課税させられた燃料費を払わなければならない。おまけにスピード違反や駐車違反などで、常に罰則が付き纏い、その点でも金を払う破目になるが、逆に言えばそれだけの消費を発生させている。もしも全ての日本人が交通ルールを守れば、日本警察は罰金を徴収することが出来なくなり、組織の予算編成にも影響が及ぶだろう。  だが歩行者はどうだろうか。歩行者は道を歩くに際して如何なる金も払っていない。横断歩道の赤信号を無視しようが、歩きスマホをしようが、車道に無暗に飛び出そうが無罪放免である。遠出する時も公共の交通機関を利用するから、大した経済効果を及ぼさない。歩行者も免許制にした方が良いのではないかと思えるほどに傍若無人な者も少なくない。  つまり、自動車を持つ運転手を優遇して、金を持たない歩行者を切り捨てた方が経済損失は小さい。自動車を持つ者はそれらを購入する資金や経済力を有しており、日本国のGDPに大きく貢献しているが、歩行者は経済的な価値を生み出していない。車離れが進んでいるように、お金が無いから車を買えないだけの者も多い。  ならば交通事故の責任を歩行者側に課す『車優先社会』は、なんて経済合理性に富んだシステムだろうか!  寺田智浩は東京国際大学の人間社会学部福祉心理学科だった。  寺田はこんな妄想が出来る自分を天才に感じた。
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