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寺田はどれが正解なのか分からない。『人それぞれ違う』で片付けられるが、問題なのは寺田自身である。寺田は、自分があの茶髪のショートカットの女の子を可愛いと思ったのは、
「目が悪くて可愛く見えていた」
高寺説なのか、
「紅一点に惹かれていた」
橋爪説なのか、
「自分が特別視していた」
米田や小野の説なのか、皆目見当が付かなかった。
寺田はあの子に会うのが怖くなってきた。
随分と歩かされたから、寺田は日製自動車栃木工場の構造が少し分かってきた。自分達が入って来た南門から見て鋳造⇒車軸⇒塗装⇒組立と車が製造されて行く順番通りに工場も並んでいる。
工場の西側の壁に沿って歩かされ、効率化した敷地を確認すると、一行も車軸課と塗装課の間に位置している研修棟に到着した。
研修棟は、西側の壁沿いに建てられている2階建ての白い建物。プレハブよりは立派だが、壁は薄そうだった。1階は食堂になっていて、車軸課と塗装課の社員達が利用し易い位置に在った。
一行は2階に上がらされた。階段は四角い建物に外付けしたように歩行者通路側に出っ張っていて、南北の両方から上り下り出来るように両側に階段が設けられて三角形を描いていた。階段の傾斜は意外と急だった。
2階に上がった一行は先ほどまで自分達が歩いている道に沿っている廊下を進み、左の扉から中に入れと指示された。
清掃されているが清潔感の薄い会議室で、古い中学校の音楽室のようだった。東京国際大学の教室の方が綺麗だった。寺田は『都落ち』と云う言葉をまた思い出した。
並べられた長テーブルの椅子に着席した期間従業員達は、最初に健康診断があるので貴重品以外の荷物を此処に置くよう指示された。しかし工場の中を私服でうろつかれるのは拙いので、先に服と靴、帽子のサイズを問われてそれぞれに見合った物を支給された。健康診断で問題が有るとされた人は入社出来ないのに、どうして制服を先に用意してくれるのか寺田には理解出来ない。入社出来ないかもしれないなら先に健康診断を行い、結果が出た後に制服を支給した方が良い気がした。こう考えるのは寺田だけではなかった。
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