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寺田がパズドラに夢中の間に、列車は大宮駅に到着した。寺田は降車する。大宮駅から先は埼京線と名称が変わるホームは大宮駅の地下に位置している。乗降客は長い階段やエスカレーターを利用し、上階へ進む。上階に辿り着いた寺田は、今度は全く利用したことが無い宇都宮線のホームへ降りて行った。
電車はまだ来ていなかった。寺田は近くに在る自動販売機で500mlのペットボトルの水を買った。辺りを見回し、スーツを着た中年男性達を見つめて思う。
(あの人達も本当に俺のように大学を出て就職活動をしたのかな)
バブル崩壊以前に就職出来た世代の話は全く信用出来ないと寺田は思っている。日本の景気が良かった時代は比較の対象にならない。若者が公務員に見向きもしなかった好景気のぬるま湯就職戦線では、年寄りの方が『戦争を知らない世代』になってしまう。
寺田は、スーツを着たデブチビハゲの50過ぎの男性を見て確信する。
(あのおっさんは俺と同じ時代に生まれていたら、絶対に就職など出来なかっただろう)
しかし、そう思って納得しようにも納得し難い状況が寺田を包囲していた。民主党政権が倒れて安倍政権になって以来、安倍総理はアベノミクスと呼ばれる経済政策を展開、日本の景気は良くなっていると聞く。少なくともテレビやスマホのニュースでは景気が良くなっていると報道されていた。
そんな状況では寺田の立場は厳しい。自宅に居ると両親は内定が取れない息子に憤懣を積もらせた。景気が良くなったと云われているのに、どうしてお前は就職出来ないのだ、と言い方を変えながら何度も責められて、寺田は実家に居たくなくなった。父は城西大学出身、母は高卒。どちらも正社員の内定を取った過去がある。勿論、バブル崩壊以前の話だ。戦争を知らない世代。
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