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 翌日の土曜日、引っ越しや研修で疲れていた寺田は、結局自分の部屋でiPhoneと戯れているだけで1日を潰した。  午前中、寺田はNetflixで映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』を見た。寺田は黒人差別問題やベトナム戦争などの知識が無いため、この映画に素直に感動していた。終盤ジェニーと死に別れてしまうフォレスト・ガンプが可哀想だと思った。学生のアメリカンフットボールのスターになって名門大学を卒業出来ても、ベトナム戦争の英雄になっても、卓球でスーパースターになっても、海老採り船の船長を始めて大金持ちになっても、愛した女性だけは失ってしまう。大好きだったお母さんが亡くなる場面でも、寺田はiPhoneを右手に握りながら涙を流した。  見終わると寮のトイレで用を足した。成宮は来なかった。現在の寺田にとって、『フォレスト・ガンプ』におけるバッパたる友人と成り得るのは成宮だけだが、この日も会えなかった。  トイレが終わり、映画鑑賞中に洗っていた洗濯物を籠に取り込み、部屋に戻る廊下を歩いていると、実家で衣類を洗濯していた母親のことを考えた。自分が埼玉を発って栃木に来てから早4日経つが、父からも母からもLINEもメールも届かない。寺田はフォレストのように両親を好きになれない自分が薄情なのか必然なのか分からなくなってくる。フォレストのようなお母さんなら、寺田だって自分の母親を好きになれるだろう。でも母は自分に何の連絡も寄越さない。それでも母親への愛情は湧いて来るモノだろうか。  洗濯した衣服にハンガーを通し、物干し竿代わりにサッシのカーテンレールに引っ掛けていると、服を洗濯してくれる嫁も彼女も居ない自分を寺田は意識した。 「フォレストって本当に不幸だったのかな?」 頭の中だけで良いのだが、敢えて口を動かして声を発してみる寺田。ジェニーは確かに死んでしまう。でもほんの僅かな時間でも二人は結ばれて、子供だって作れるのだ(ただ、あの子供はどうもフォレスト・ガンプの本当の子供ではなく別の男の子供なんだが、ジェニーも自身の余命が迫っていたからフォレストに託したのではないかと寺田は思った)。それって本当に不幸なのか。愛し、愛される人と僅かな時間でも一緒に居られたのだから、それって幸せではないかと洗濯物を干しながら寺田は考える。
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