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洗濯物を干し終わり、窓の外を眺める寺田。この日の上三川町はよく晴れていて、長閑な雰囲気をより強めていた。
「幽遊白書だ」
寺田は冨樫義博原作『幽遊白書』のアニメ版主題歌『微笑みの弾丸』を思い出していた。しかし寺田は、曲名自体は忘れている。寺田が生まれた頃にはアニメの本放送は終わっていたが、小学校に上がると『週刊少年ジャンプ』を読み始め、休載を繰り返す『ハンター×ハンター』に触れ、冨樫義博がその昔描いた漫画がどのようなモノだったのか気になっていた。そんな中、高校時代友人だった外崎の家に遊びに行った際、外崎の兄の本棚に『幽遊白書』が置かれていて読む機会を得た。とても面白かった。『幽遊白書』はメタフィクションである。当時の少年漫画の特有の話の流れ、『勝った奴が仲間になる』『特訓して強くなる』と云ったお約束に対して、同じことを繰り返している主人公を通じて作者は疑問を投げ掛けていき、終盤では主人公が敗北させて物語を終わらせる。少年漫画を通じて、少年漫画の定型に疑問を訴え掛ける冨樫義博の文学性に感動し、寺田は休載を繰り返す冨樫義博を許そうと思った。そしてアニメに触れて主題歌を知った。誰も居ない荒野と街中が実はどちらも……と云う歌詞の意図が中々深いと寺田は思った。
寺田もそんな思いに馳せてみる。
恋人も嫁も出来ず如何なる恋愛にも恵まれないのと、愛した女と生き死に別れてしまうのと、どちらの方がつらいのだろう。
寺田はまだ前者しか知らない。
寺田は茶髪のショートカットの女の子のことを考えてみる。
もし彼女との関係が悲恋に終わったら、恋愛の無かった今現在の自分の頃の方が良かったと思うモノなのだろうか。
寺田は後者を経験してみたかった。
翌日の日曜日は、寺田は一人で近所を散歩して出掛けて、工場の東側に広大な公園があるのを見つけた。iPhoneのポケモンGOを起動して、寺田は埼玉に居た頃は見つけられなかったドードーとカブトを捕まえた。
ポケモン以外で知っているモノには出会わなかった。
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