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 真面に読書すらしたことない寺田でもやる気だけは満ち溢れているから、彼なりに一生懸命に標準作業書を読んでいると、小学校でも聴いたチャイムが工場内に鳴り響く。1,2分もしない内に玄田組の社員達が続々と集まって来た。工場内の自販機でジュースを買った者や冷蔵庫から自分のペットボトルを取り出していく者も居る。年齢は10代から50代まで千差万別だが、男しか居なかった。男達は寺田が座している机の周りの椅子に座り出した。10代から30代までの若者はスマートフォンを早速見始めた。スマホに執着する様子は、ニコチンが切れて喫煙しているようだった。玄田は組の人間が全員戻ってきた所で、 「今日から入って貰う寺田君だから」 挨拶も無しに、老齢の社員が玄田に問い掛ける。 「寺田君には何処に入って貰うんだ?」 「5ラインかな」 「5ラインで目視か」 「しばらくはね。室井さん、寺田君をお願いします」 老齢の社員は室井と云う名前だった。近頃の芸能人で50代は若い。阿部寛、堤真一、椎名桔平、近藤真彦、稲葉浩志、高橋克典などは皆50代だが、誰もが若々しく魅力的である。だが室井は一般的に50代と言われて想像出来る50代で、顔は伊東四朗に似ていた。80代と知れば伊東四朗も若々しいが、50代で顔が伊東四朗だと確かにこちらの方が普通なのだが、寺田には物凄く老けて見えた。  寺田にはテレビメディアなどで活躍する芸能人達を客観的に分析出来る能力は無い。近頃の日本のテレビに出演している女性タレントや女優、アナウンサーなどは戦時中の女性よりも痩せているが、画面に映る物を疑えない純粋な視聴者たる寺田には、テレビに出る女性達が普通の体型で、一般の女性達が太っているように感じていた。そういう感性の持ち主だから、室井も随分年老いた者にしか見えなかった。
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