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 これから世話になる室井に寺田が一礼すると、挨拶が終わるのを見越したように、寺田の真向かいの席に座っている見た目40代前半の男が、寺田から見て右隣に座ってスマホを見ている20代の男にほくそ笑みながら話し掛ける。 「ねぇねぇ、江頭君。行った?」 江頭はスマホを凝視しながら自信気な笑みを浮かべて、 「行きましたよ」 と言うと、寺田以外の周りの人間が全員爆笑した。寺田には意味が分からない。 「お前、また行ったのか!」 自分から質問した癖に呆れたように笑う40代の男。パソコンを見ていた玄田まで江頭を見て、 「お前、淋病になったのに懲りねぇなぁ」 江頭は玄田の方を向き、 「淋病じゃないですよ。その他雑菌ですって。それに今はもうちゃんと治してますから、性病撒き散らしているわけじゃないですよ」 室井まで会話に入って来て、 「お前は相変わらずどうしようもないな」 皆が江頭をつついているのが分からず、寺田は思い切って、 「すみません。何処に行ったんですか?」 江頭ではなく、江頭の隣に座っていた40代が答えた。 「ソープだよ。ヴァンパイアR」 江頭の行った場所がソープランドと知らされると寺田は、工場内の汚い空気よりも江頭が気持ち悪い汚物に思えた。  江頭は、玄田の紹介から一発で名前を覚えた若者を見て断言した。 「寺田君、女は金で買うもんだぜ」 「なんて酷い言い方っ!」 寺田は抗議するように呟いたが、周りの男達は寺田の言葉を聴くとむしろ少し笑った。  寺田はこんな奴らと一緒に働かないといけない自身の不幸を呪いたくなった。  江頭と40代の男は二人で問答を始めた。 「今度は誰だ?」 「咲ちゃんです」 江頭は自身のスマートフォンで池袋のソープランド『ヴァンパイアR』のホームページを開き、40代に見せていた。 「可愛いじゃん」 「川崎あやに似てました」 「知らないな」 「コンビニの雑誌コーナー見に行くと、グラビアの表紙飾っていますよ」 寺田は江頭に質問して来る40代の男も不潔に感じた。大っぴらに話す江頭も江頭だが、こういう下世話を会社内で江頭に喋らそうと嗾けるこの男もかなり下品だ。  しかし寺田も、グラビアアイドルの川崎あやを知っていたから、なんだか自分も汚物塗れの火宅を構成している住民のように思えて、嫌な気持ちになった。寺田は自身が『掃き溜めに《の》鶴』であることを願った。
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