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 寺田は玄田の指示通り、5ラインに送られ目視作業を与えられた。5ラインはデフケースを造っており、室井が担当している。  デフケースは、自動車が走行中にカーブなどをする時、左右の速度差を相殺して同じ回転力を与えるための歯車(ギア)を囲う部品である。5ラインは、鋳造課にて一回高熱でドロドロに溶かした(くろがね)を型に入れて冷やして固めて造った鋳物を素材とし、このままでは使用出来ないから穴を開けたり、決められた寸法に削ったりして、デフケースを完成させる工程である。この後、デフケースは各ラインで製造されたピニオンギアやサイドギアを内部に搭載して完成する。塗装課を飛ばして組立課に送ったり、他社の自動車メーカーに販売したりする。デフケースの値段は物にも由るが最低でも1個数千円、内部のギアを取り付けた物になると1個でも数万円台の代物になる。自動車会社の社員はその価値を知っているため、昔から内部の者に由る部品の盗難が相次いだ。これは日製自動車だけではなく、全ての自動車メーカーが慢性的に抱えている問題である。そのため、自動車会社の警備は何処も総じて厳重になっている。警備員達が警戒している対象とは(絶対ではないが)自社の社員達であった。  こんなことは寺田には一切教えられない。とりあえず、自動車の車軸に使われる部品を決められた通りに製錬して、仕様とは異なるモノを造らず、そのようなモノが出た場合は必ず報告して、場合によっては機械を止めて異常を出している箇所を調べて対処する。今の寺田がやらされることは、完成したデフケースの仕様が規格に合っているのかを調べるだけである。  寺田にはデフケースが全て同じ物にしか見えなかった。この日は異常な部品が見当たらず、決められた箇所を目視したり、検査に使う器具を通したりしても、尽く規定内のモノだった。  此処での作業を月曜日から金曜日まで行い、次の週の月曜日から夜勤で月曜日から金曜日まで行う。  寺田は交代制勤務に慣れていった。
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