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仕事中に無駄話はしない。
その代わり、休憩中に寺田は会社の人間とよく喋るようになった。
寺田は正社員登用を目指すと宣言した。生粋の栃木県民で大学など出ていない室井は東京国際大学の偏差値を知らないため、大学を出ても正社員になれない現代は如何に不況なのかと同情してくれた。同じ場所での勤務が続いたことで、寺田は室井と段々仲良くなってきた。
ある日、寺田の入っていた5ラインの機械の1つが止まったので、寺田は他のラインを補助していた室井を呼びに行った。
機械が止まった理由は内部の検査装置が異常を示したからだ。
室井は安全札を貼って、機械の電源を切り、扉を開けて内部のデフケースを見た。室井は器具など使わなくても、ちょっと見ただけですぐに加工後のベアリング径が規定より大きいと分かった。
それは職場に入ってまだ3週間の寺田には超人的な能力に思えた。
室井と寺田は前後のデフケースを残らず検査した。デフケースが明確に異常を示したのは室井が見つけたデフケースが最初だったが、その間も機械は動いていたため、3個のデフケースがダメになった。この3つは廃棄した。
室井は、当該箇所を加工している機械を調査し、前の班の社員が刃具交換した部位で刃具の破損が起きていたことを素早く察知した。室井は機械がカウントしている加工数から、刃具交換後のデフケースの数を割り出し、全てのデフケースをチェックした。異常を示すデフケースは無かったので、出荷に差し支えは及ぼさなかった。
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