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休憩中、寺田は室井のご機嫌を取りたかったわけではないのだが、一発でベアリング径が大きいことを見破ったのを凄いと称賛した。すると室井は、次のことを述べた。
「ベテランの正社員になると、誰でもああいう異常は分かるようになるよ。いいか、寺田? うちの会社は『技術の日製』と呼ばれているよな。でも加工なんて俺が新入社員として入った40年前から機械が行っているんだ」
これは事実である。『イノベーション』などと云う横文字が氾濫する前から、日製自動車では工作機械が部品を製造していた。人が手作業で行う部位の方が少ないくらいだ。工場には寺田が生まれる前や室井が入社する前から導入され、減価償却などとっくに終わって固定資産税を払うだけで利益を産み続ける年代物の機械も見掛ける。作る物が同じなら、設備投資に多額の資金など注入しないで昔から有る機械をそのまま使えば良いのである。寺田は工場に有った機械が意外と古いことに驚いていた。昔テレビ東京で見た、最新鋭の技術を駆使して緻密な製品を開発していた、取材先の中小企業や『日本のものづくり』が如何に虚しいか、寺田は室井の話を聴きながらそんなことを考えていた。
「自動車は自動車メーカーで作っているけど、自動車を造る機械や検査する道具はキーエンスなどの専門のメーカーが在るんだ」
寺田は室井の話を聴きながら、世の中はそんなものかもしれないと思った。テレビ番組を作っているのはテレビ局だが、テレビ局はテレビカメラや電波塔などを造っていない。小説家や漫画家だって、自分達が執筆に使うペンやパソコンを自分達で作っていない。高級料亭の板前やシェフだって、調理器具を自分で作っている人なんて少ない。居ないと言い切っても語弊は無いかもしれない。
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