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 すると、就職活動を始めた時に、初めて社員の平均年収が高くてその企業の名を目にするキーエンス、OSやパソコン、スマートフォンを世界中に販売しているMicrosoftやappleなどが巨大メーカーとして君臨するのも分かる気が寺田にしてきた。ゴールドラッシュで一番儲けたのはショベルやスコップを売った人と云う話のように、コインチェックで約580億円のNEM流出事件が起きるまで、ビットコインなどの仮想通貨ビジネスで一番儲かったのは取引所だった。売り手市場と言われている就職戦線でも、金融業界には5人に1人しか入れない。今時給与を手渡しで配る会社など無い。給料を受け取るためには銀行口座が必要だ。株で儲けるためにも証券会社金で口座を開く必要がある。  室井の話を聞いていると、寺田は自分程度の学歴でこう云った会社や業界に入れないのが当たり前のように感じ始めていた。就活は大学の3年から4年に掛けて行うものなのだと思っていた。違う。就職活動は生まれた瞬間に始まっていたのだ。小学校中学校を出て、どの高校を出たか、どの大学を出たのか。就職面接管は会社が長年蓄積してきたノウハウを用いて、就職希望者を査定して篩に掛けていく。その中で『選ばれし者』とされた者だけが希望する企業への就職を果たし、『選ばれぬ者』達は中小零細企業に入ったり、非正規雇用に就いたりする。社会的な信用を得るのは絶対的に『選ばれし者』である。社会的な信用とは『選ばれること』だ。  寺田は自覚した。自分は『選ばれし者』にならなければいけない。絶対に正社員登用制度で正社員に成り上がらなければならないのだ。あんな糞みたいな江頭のような男で終わってはダメなのだ。  寺田は目の前に座る江頭を見る。江頭はスマホを見ている。次の休みにソープランドで買う女の品定めをしていると寺田は思った。江頭はTwitterでフォロワーとメッセージを交換していた。  寺田が自分の話を横で熱心に聴いていると誤解した室井は、ますます調子付いて持論を展開した。
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