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9月になった。
寺田は3ケ月間の期間従業員契約を2回更新している。3ケ月でクビになるかもしれないと云うシビアな契約に反して、現実には期間従業員の椅子の競争など無いため、寺田は難なく更新し続けられた。寺田も仕事に慣れてきただけでなく、何としても正社員に成ろうと頑張っているから、室井の他多くの正社員達に作業を教わって内容を理解し、玄田組の中でも仕事が出来る社員と見做されるようになっていた。
玄田組の実態も寺田は次第に分かるようになった。工長経験者の室井は仕事が出来るが、風俗通いが趣味の江頭はやはり評判が悪い。3班2交代制の他の班のメンバー達からは勿論、工長や指導員にも時々叱られているのを目にした。江頭を目の敵にしていた寺田だが、実態は自分のライバルですらなかった。単に組の数合わせと何も知らない新人に作業を教えるよりマシってだけで江頭は生き残っているようなものだ。それに対して寺田は評判も良く、正社員達からの信頼も徐々に勝ち取れるようになっていた。
「新入社員の小森です。よろしくお願いします」
声変わりはとっくの昔に終わったはずだがソプラノの如く声が高い。テレビで視るオネエ系が発するような、男の声の低音部が高音域にノイズとして干渉して来ている声質だった。その気も有るのかな? と寺田は勘繰りたくなった。
寺田は工場の中でもプレハブの中でも顔をマスクで覆っている。マスクをしている社員は寺田だけである。9月でまだ残暑が残っているから、社員は会社の半袖Tシャツを着ている者が多い。寺田も会社のロゴが入った灰色のTシャツを上に着ていた。それ以外は、夏でも冬でも変わらない帽子とズボンを身に付けていた。
早朝、玄田組に入った小森敦と云う新人は18歳の少年だった。栃木の工業高校を卒業した後、新卒で入社した男の子で、まだ男子高校生の青臭さが残っている。酷い言い方をすれば『童貞臭』と形容しても良かった。身長は165㎝ぐらい。黒髪は少し天然パーマが掛かっている。肌は少し黒いが、女の子と手を繋いだことすら無さそうな純朴さを醸し出していた。別に同性愛者ではないが、小森を見た寺田は生まれて初めて男の子を可愛いと思った。
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