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寺田の家は大して裕福ではなかった。裕福ならば郊外の一軒家に住んでいない。そんなわけで、寺田が東京国際大学に進学するには奨学金制度を利用しなければとても学費など払えなかった。
「俺はアルバイトして学費を貯めたぞ!」
などと若者を批判しているバカは大抵年寄りだ。彼らの時代と比較すると、現在の大学の学費は桁違いに高額である。私立だけでなく、国公立大学も独立採算制が導入されたため学費は跳ね上がっているが、高齢者は知らない。二重の意味で『戦争を知らない世代』。
日本の大学の奨学金の実態は、返済義務を負う学資ローンである。奨学金の議論の場では、本当に優秀な人に無償で支払うべきと云う意見が強くなるが、本当に優秀な人は大抵裕福な家庭に育っている。金持ちの優遇に手厳しい癖に、金持ちを優遇することに気付けない。予備校では常識だが、学力は親の経済力に比例する。その大多数の現状に対して、金が無くても優秀な大学に進めた例外を引き合いに出して、鬼の首を取ったように論破出来たと自惚れる。後北条氏の顛末を『小田原評定』と故事成語にして揶揄する癖に、ネット上やテレビなどで日本人は無駄な議論ばかりに華を咲かせる。
奨学金制度の議論なんて関係無い。就職出来なかった寺田だが、借金を返さなければならない。寺田の両親は全く支払う意思が無い。『戦争を知らない世代』が好き好んで使う論理、
「大学に進んだのはお前の自己責任だろ」
寺田智浩は両親の薄情さを呪った。金持ちなら親に学費を負担して貰えるのに、内定も取れずに金は返せって。
「これなら大学なんかに進まなければ良かった……」
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