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寺田は、当時は田所の話が長いと感じただけだが、今は負けた奴が可哀想だと同情出来る。
「でも、さっきから一般に流布している認識と事実は違うって話をしているけど、真実は変わらないんだ。嘘が認められちゃう原因だ。事実は違っても、真実は変わらない。何故なら人々の認識は変わらないからさ。年寄りが分かり易いよね。もう、それは間違っているって何年も前から分かっていることでも、自分の認識を改めない。君達のお父さんやお母さんもそうでしょ? 本当はこうだったって言ったって聞く耳なんて持たないから、持論を繰り返す。その話、何十年も前から聴いているよって思うけど変えられないんだよ。人は自分の認識を変えるより、自分の誤解を押し通した方が自分のプライドを守られるからね。それが勝者の特権だよ。間違っていること言ってたって、どうせ何年も経てば自分らは死ぬから構わない。だから年寄りって保守的な人が増えるんだ」
寺田が大学に居た頃、田所はまだ20代だった。(本物の)東京大学と東京大学大学院を修了して博士号を持ち、東京国際大学の授業に足を運んでいた。寺田はFラン大学と揶揄される東京国際大学もこんなに素晴らしい先生が来てくれるなんて凄いなぁと寺田は単純に喜んでいたが、大学の非常勤講師の実態はアルバイトに過ぎない。勿論、そんな情報をスマホでゲームしかしない寺田は知る由も無かった。田所が東京大学を出た自分よりも遥かに頭の悪い東京国際大学の生徒達に愚痴を溢すようにこんな話を教えたのは、自らの貧困事情を全く顧みてくれない自分の両親や社会に対する怨みつらみに起因していた。それは地方公務員である学校の先生が自分達の給与待遇の悪さを生徒達に語るのと同じ理屈である。常勤職員ならば待遇はむしろ比較的良い部類に入るのだが、世の中で働いていれば給料を貰い過ぎていると感じる人は居ない。田所が話しているのは愚痴に過ぎなかったが、当時の寺田にも、そして現在の寺田にも、田所の意図など分からない。
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