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田所の授業を頭に思い描きながら作業をしていると、あっと言う間に10時半の休憩時間が来た。
従業員達は次々とプレハブ小屋に集まり、自販機で清涼飲料水を買い、椅子に座り休憩に入った。
四角く並べられたプレハブ内、年長の室井は出入口の手前に座る。室井と仲の良い寺田は室井の右隣りに座った。角を曲がって室井の左隣に新人の小森が座った。小森の左隣に別のラインを担当している20代後半の期間従業員の熊谷、角を曲がって室井と向かい合うように江頭、江頭の左隣に江頭の風俗自慢を嗾ける40代正社員の山岡が座った。
寺田は他の社員の顔なんてどうでも良い。iPhoneで早速ゲームを始めようとするが、新人の小森が気になってどうもゲームをする気が起きなかった。
寺田がゲームを躊躇っていると、出入口から工長の玄田が入って来て、寺田の真後ろに壁付けした事務机にノートパソコンを置いて、新人の小森の方に回転式の事務椅子を回して顔を向け、
「仕事どうだった?」
「いや、研修で教わった通りだったんで助かりました」
小森もスマートフォンを見たいが、玄田に話し掛けられるので自重している。室井が話に入って来る。
「小森君は凄いよ。こんなに簡単に現場に対応出来るんだもんね」
「まぁ、教育が良くなったからだろう」
玄田の話を聴いた小森は気になって、
「昔は教育が悪かったんですか?」
玄田と室井は顔を見合わせながら、
「俺達の時は研修なんて無かったよ。いきなり現場に来させられて、この作業やれ! だったからね」
「確かに……」
新人研修でイロハを学んできた小森には信じられず、
「そんなんで作業出来るんですか?」
「やるしかないよな」
玄田と室井は微笑みながら答えた。
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