12人が本棚に入れています
本棚に追加
少し間が空く。その間に玄田は事務机に向いてノートパソコンで作業をしたが、すぐに社員達の方に振り返って、
「そうだ、江頭。お前、小森君に余計なこと教えるなよ」
当人の江頭、熊谷と山岡は自分のスマートフォンを見ながら鼻息を吹いて微笑した。江頭は半ば呆れながら、
「余計なことって何ですか……」
玄田は容赦しない。
「分かるだろ。小森は未成年だから、お前みたいな奴は刺激が強過ぎるんだよ」
自嘲的に顔を歪める江頭。何も知らない小森は、
「刺激が強いって何ですか?」
と無邪気に訊いてしまう。山岡が代わりに答えた。
「こいつ、自分の給料全部風俗に使ってやがるんだ」
江頭は流石にスマートフォンから目を離して、山岡の方を見て、
「全部じゃないですよ! ちゃんと税金は払っていますよ」
「細かいことはイイんだよ。小森君、ちゃんと給料は貯金しないとダメだよ。江頭に風俗遊びなんか教わっちゃダメだからね」
すると、江頭は寺田が生涯忘れることの出来ないことを言った。
「いやいや、小森君には教えませんよ。教えるとしたら寺田君かな」
全く会話に入っていなかったのに、急に自分のことを話題にされたことに寺田は動揺を隠せない。しかもよりにもよって、江頭が風俗遊びを教える相手として指名したのだから堪らない。
この時には、寺田は江頭が自分より年上と認識していた。
社員達に見られているので大声など上げないが、それでも下賤な江頭と同じにされたくない寺田は少し抗議するように訊いた。
「どうして僕に教えたいんです?」
寺田は江頭の顔を見た。江頭は自分のスマートフォンを見ている。
「だって、俺と同じ期間工じゃん」
寺田は江頭から一緒にされていた。江頭の持論はこうだ。
「小森君は正社員でしょ? だから本人が結婚したければいつでも結婚出来るよ。この御時勢に日製の正社員なんだからね。小森君は成人式に行った方が良いよ。其処で同じ学校に通っていた女子達に再会してさぁ、連絡先交換してさぁ、恋愛して結婚すれば良いよ。会社の中の女の子でも良いかもしれないけどね」
寺田は自分から話を逸らしているように見える江頭が許せなくて、少し喉を絞ってドスを利かせて、
「じゃあ、僕は何なんですか?」
最初のコメントを投稿しよう!