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『プラントvsゾンビ』がプール付き裏庭のステージまで進んだ頃になると、列車がJR石橋駅に到着したので寺田は降車した。
ホームから階段で改札階に上がる。改札を通過して左に曲がる。少し歩いた後、階段を降りて駅を出る。狭いロータリーがあった。東京埼玉と違い、バスも無ければタクシーも一、二台しか停まっていない。
(エラいド田舎に来てしまったなぁ)
寺田はバス停を示している小さな看板の在る場所まで歩道を歩いて行く。辿り着いて確認すると、バス停の看板に『日製自動車』と書かれている。バス停の時刻を確認する、次のバスは11時30分。あと15分で来る予定だ。
寺田は内定を取れなかったことをチクチク非難してくる両親から逃げるため、一人暮らしをしたいと願っていた。しかし実家を出て、数万円のアパートの家賃を払いながら低賃金の非正規雇用に就いて、奨学金を返済していくのは困難だ。途方に暮れていた時、スマホで検索していると『日製自動車』の期間従業員募集ページを見つけた。
『日製自動車』はトヨタやホンダなどと並ぶ大手自動車メーカー。東証一部上場企業であり、フランスのパリに本社を置くノルーと資本関係を結んでいる。寺田は就職活動時代に『日製自動車』にもエントリーシートを送り、見事お祈りメールを貰っている。
自分を正社員試験で落としている会社に雇って貰おうとするのは不本意だが、寺田が最も興味を惹かれたのは寮費無料の項目だった。寮費だけでなく、水道高熱も無料だった。
小学校の算数で挫折している寺田でも金の勘定くらいなら出来る。安いアパートでも最低4万円はする。それより安価だと物凄く汚かったり狭かったりするため、住むのに適すのか怪しい。第一、1万円2万円も安い金額ではない。そういう汚い場所に住むくらいならば、1円も家賃も水道光熱費も払わずに住める社員寮の方が良い。家も出られて口煩い両親とも別れられるのだから一石二鳥だ。
寺田は川越市で行われていた説明会に参加し、内定通知を郵送で受け取った。初めて内定が取れた。
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