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 翌日の朝7時半、社員証を持っていない寺田は白鵬寮から近い工場の南門に集合させられた。服装はラフで昨日とは色の違う黒のGAPのパーカーに紺色のジーンズ。名簿を持った人事課の社員に名前を告げて、新規の期間従業員が全員集合するまで待たされる。早めに来た者達は、立ちながら自分のスマホに夢中になっていた。  寺田は南門の人通りを眺めた。車通勤の社員達の駐車場は南門の左右に用意されているため、基本的には南門のゲートを通って行くのは資材や完成部品を搭載している大型トラックだけである。だが、たまに警備員が立つゲートまで普通乗用車を進行させて、警備員に社員証を見せ、車のトランクを警備員に開けられて中を見せると、晴れて入場許可を得て、工場敷地内に進んで行く車輌も確認出来た。社員達の大半がゲート横の駐車場を利用しているのは明らかだから、きっと会社のお偉いさんだろうと寺田は考えた。南門だけを見ても警備は極めて厳重だ。しかし、寺田は真面目に働いている警備員達には申し訳ないが、やり過ぎている感を抱いた。工場内に大人気の芸能人が居るわけでもないのに、何をこいつらは真面目に警備しているのかアホらしい滑稽さを見出した。  寺田も自分のiPhoneを見始めた。やるのはモンスターストライク。以前とは少し違っていて、自分の前を通り過ぎて行く社員達のことも寺田は少し気にしながら遊びに興じていた。昨日再会した成宮や印象に残った茶髪ショートの女の子が見られるかもしれない。頭の中ではそう考えていたが、寺田の目は成宮などまるで探さなかった。前を通って行くのが女の子だと察すると寺田はiPhoneから目を離したが、男は尽く無視する。途中から成宮を探しても仕方がないと寺田も割り切り、専ら女の子を補足するためのセンサーに徹した。通過して行くのはほとんど男性ばかり。女の子を探っても無意義に感じ始めたところで、入社予定の期間従業員達が集合し終わって、20人くらいの集団が一斉に敷地内へ歩みを始めた。寺田も限りの良いところでモンストを一旦終わらせて前を向いて歩き始めた。 「歩きスマホはやめて下さい」 と集団を束ねている人事課の社員が指図して来たからだ。寺田は、この社員を五月蠅く思った。
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