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その時ドアが開いて、三つのコップと飲み物と焼きスルメを載せたトレイを持ったミカが入ってきた。「あたしはこの部屋を片づけたことなんか今まで一度もないよ。牛乳、パイナップルジュース、麦茶、どれでも好きなもの飲みな」そうして龍にそのトレイを預けて、すぐに部屋を出て行った。
「何で嘘を言う?」たけしが龍を睨んだ。
「これではっきりしたな」ひろしも低い声で言った。
「な、何がだよ」龍はそわそわしながら、トレイをぴかぴかで指紋一つついていないガラスのテーブルに置いた。
「おまえが自分でこの部屋を片づけてるわけじゃなくて、誰かにやってもらってるってこと……。母親以外の誰かに」
「怪しすぎる」
「い、いいだろ、そんなプライベートなことに首突っ込むな。飲み物、どれがいい?」
「たけし、後で追求しようぜ」ひろしがそう言いながらパイナップルジュースのペットボトルを手に取った。
「そ、それはだめだ」龍がすかさず言った。
「は?」ひろしが手を止めて顔を上げた。
「パ、パイナップルジュースは飲むな」
「何でだよ」納得いかない顔でひろしは龍を睨んだ。「この三つの中で、中学生が客として飲むとしたら、これが一番それらしいじゃねえか」
「い、いや、おまえ身長伸ばしたいんだろ? 牛乳にしろ、牛乳に」
「大きなお世話だ」
「何か理由があるのか?」たけしが訊いた。「なんでこのジュース飲んじゃいけないんだよ」
「しょ、賞味期限が切れてる」龍が慌てて言った。
たけしはひろしからボトルを取り上げた。そしてそのキャップに刻印されている日付を見た。「賞味期限、来年だぜ」
「何で嘘を言う?」ひろしが言った。
「これではっきりしたな」たけしが低い声で言った。
「な、何がだよ」
「龍、おまえ、パイナップルジュースに何か、特別な思いがあるだろ」
ひろしが続けた。「そ、俺たちに飲ませたくない理由ってのが」
「いいから牛乳にしろ、牛乳にっ!」龍はたけしの手からジュースのボトルをむしり取ると、部屋の隅の彼らの手が届かないところに置いた。
「ひろし、後で追求しようぜ」
「そうだな」
「ところで、」たけしが眉間にしわを寄せて言った。「なんで焼きスルメなんだ?」
「確かに。こういう場合、普通ポテチかクッキー系じゃねえの?」
「母さんのシュミなんだよ」
「そうそう、今週発売の雑誌、出せよ、ひろし」たけしがにやりとして言った。
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