0人が本棚に入れています
本棚に追加
Chocolate Time 外伝 「悪友タイム」
「おい、龍、」
中学の卒業式を間近に控えたとある金曜日の放課後、クラスメートのたけしが龍を呼び止めた。
「なんだ、たけし」
「今日は学校早く終わったし、おまえんちに遊びに行っていいか? ひろしと一緒に」
「ひろしと?」
「ああ。今週発売の雑誌、買ったからってさ」
「いいよ、別に」
「じゃあこのままおまえんちに行くから」たけしは不必要に満面に笑みをたたえながら龍の肩を乱暴に叩いた。
山本たけしも川本ひろしも龍の水泳部の友人だった。現役の頃は、もう一人の友人森本あつしとともにメドレーリレーで何度も大会の表彰台に上った。
「おじゃましまーす!」たけしが海棠家の玄関を入るなり大声で言った。ミカが顔を出した。「おお、たけしにひろし。いらっしゃい。何だこんな時間に。もう学校終わったのか?」
「うん」ひろしが言った。「今日は早く終わったんで、速攻で遊びにきたんっす」
「上がりな。龍、牛乳でいいか?」
「俺はいいけど、普通お客に出す飲み物は牛乳ってことにはならないんじゃない?」
「ひろし、背、伸ばしたいかと思ってさ」
「ほっといてよ、ミカおばちゃん」ひろしは身長が160㌢だった。中三にしては小柄な男子だ。
三人は階段を上がっていった。
「入れよ」龍がドアを開けて二人の友人を促した。
先に部屋に足を踏み入れたたけしが言った。「最近特に思うんだが」
「何だよ」
「おまえの部屋って、なんかこう、中学生男子の部屋っぽくないな」
「そうか?」
「ひろし、お前もそう思わないか?」
「思う。妙に片づいてる。俺たちがこうして抜き打ちで遊びに来ても、ちゃんと片づいてる。謎だ」
「おまえらと違って俺はきれい好きなんだよ」龍が言いながらドアを閉めた。
ひろしが腕組みをして言った。「そうかー? だって、お前中一ぐらいまでこの部屋めちゃくちゃ散らかってたじゃねえか。あの頃と比べっと、まるで別人の部屋だぜ」
「何かあったのか? 龍。あれから」たけしがいぶかしげに龍の顔を見た。
「べ、別に、何も」
「誰かにやってもらってる、とか」
「と、時々はな。か、母さんが勝手に片づけてくれてるらしいんだ」
最初のコメントを投稿しよう!